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110周年・もの  ~算盤~

(2022年初掲載)

秋田県立視覚支援学校オリジナルキャラクターのチューモくんです。
「チューモくん日記」では、本校やその周辺のことについて語っていきます。

秋田県立視覚支援学校は、令和4年度で創立110周年。
今回は、本校に残されている算盤の話です。

点字は、左から右に手を動かして経時的に情報を読み取っていく文字なので、筆算で計算する(縦に計算する)ことは難しいのです。
一般の学校では小学3年生から取り扱う算盤ですが、視覚支援学校の点字使用の子どもたちは、小学2年生から筆算の代わりに算盤を使用します。
点字教科書は、一般の教科書を点字化したものですが、2年生になると「珠算編」という一般の教科書とは異なる内容が入ってきます。

まずは、現在使われている算盤です(写真)。堀江そろばんの「TH式」というものです。
珠の部分が、普通の算盤と違って、こけしのような形になっていますね。
これを前後に倒して計算します。スプリングが入っていて、ちょっと触っても珠の位置がずれないので、見えない人でも使いやすいのです。
このほかに、こけしのような形の頭の部分が丸くなっているものもあります。それは、東京教育大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の武田耕一郎が考案したもので、「武田式」と呼ばれています。

次の写真は、本校で以前使われていた算盤です。
珠の部分が、爪のような形になっています。通称「こはぜ算盤」。
これは、明治の末に東京盲学校の岸高丈夫によって考案された「岸高式算盤( 関東式算盤)」と呼ばれる、将棋のコマのような形をした豆板状の珠を立て起こしする算盤を改良したものです。
戦後に、愛知県小牧市の鈴木栄が岸高式算盤をプラスチック製にして大量生産したもので、「明星算盤」という名称です。
本校にある算盤の側面にも「鈴木工業所製」という銘板が打ち付けられています。

そして、それよりも古いのが、次の写真。
一見、普通の算盤に見えますが、裏に板が付いていますね。
よく見ると、珠の下の部分が削ってあって底板と接触するので、くるくる回らず、あまり動かないようになっています。
これは、「半珠算盤(関西式算盤・古河式算盤)」と呼ばれて、明治時代から第2次世界大戦後まで長く使われたものです。京都府立盲唖院(現・京都府立盲学校)の古川太四郎が考案しました。
本校に残っていたものには、使っていた生徒の名前が書かれていました。
調べてみたら、昭和40年度に卒業した人でした。
今から60年くらい前の生徒が使っていたものですね。

これ(写真)は、クランマー式(アメリカ式)と呼ばれる算盤です。
珠の後ろにスポンジ状の素材が張ってあり、摩擦で、珠が簡単に動かないようになっています。

視覚障害者用算盤は、この他にもいろいろあって、「全国珠算新聞」では、日本そろばん資料館学芸員の太田敏幸さんが、①岸高式(関東式) ②半珠式(関西式・大阪式) ③クランマー式(アメリカ式) ④堀江式 ⑤武田式 ⑥駒式 ⑦TH式 ⑧堀口式 ⑨明星式 ⑩マグネチック問屋そろばん の10醜類があると紹介していました。

ところで、珠算検定というものがありますね。珠算塾に通ったことがある人もいるのではないでしょうか。10級から始まって9級、8級…と上がっていきますね。
同じように、日本商工会議所主催の視覚障害者珠算検定試験というのもあります。
こちらは、FクラスからAクラスまであります。
なぜ、ABCDEFのクラス分けにしたのでしょうか?
その理由を、「盲人の珠算検定」(日本商工会議所盲人珠算検定試験専門委員会 編、日本珠算連盟、1966年)の中で見つけました。

「珠算能力検定試験の等級は,?般に1 級,2 級……というように数でその等級を表わしていますが,この検定は,将来諸外国でも実施するという国際的な観点から,等級の名称をAクラス,Bクラス,Cクラス,Dクラス,Eクラスの五階級としました。特にAクラスは,正眼者の珠算能力検定試体の3級以上の能力にあたる高度のものとなっています。」

視覚障害者用の検定試験が始まったときから、国際化を見据えていたのですね。
開始時はEクラスまでだったのですが、後にFクラスができ、6階級となりました。本校でも、毎年、珠算検定に挑戦する生徒がいます。

参考文献

  • 「盲人の珠算検定」日本商工会議所盲人珠算検定試験専門委員会 編、日本珠算連盟(1966年)
  • 小林一弘「先人の叡智(その4)盲人用算盤などの算数用具」、雑誌「視覚障害」42号(1979年7月)
  • 「全国珠算新聞」(2017年3月1日号)

(2025年6月20日再掲載)

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