ここがポイント教科指導 理科編
理科は、実体験や日常生活にみる科学現象と結び付けて考えることで、身近に感じることができる教科です。視覚に障害のある児童生徒にとって、日常生活で見られる科学的な変化を十分に捉えることが難しく、見過ごしてしまうことが少なくありません。また「危険なこと」を本人や周囲が避けて生活していることも多くあります。
特別支援学校学習指導要領では、「児童生徒が聴覚、触覚及び保有する視覚などを十分に活用して、具体的な事物・事象や動作と言葉とを結び付けて、的確な概念の形成を図り、言葉を正しく理解し活用できるようにすること」とされています。これを踏まえ、本校の理科教育では「直接体験を重視すること」を基本としています。以下に「ガスバーナーの操作」を事例として具体的なポイントを紹介します。
事例紹介(ガスバーナーの操作)
◇実験を行う前の準備
(1)一人に一つ実験器具を準備
見える児童生徒は離れていても見えますが、視覚に障害がある児童生徒にとっては直接触れて操作しないと理解が難しくなります。実験器具は必ず一人に一つ準備します。
(2)机上の物の位置の把握(写真1)
机上に置かれる物の位置を、児童生徒自身が把握していることが大事です。写真では、マッチ箱、燃えさし入れ、「マッチストライカー」という、片手でマッチをすることができる道具(詳細は後述)が置いてあります。安全や水濡れを考慮し、箱に入れるなど工夫しましょう。
(3)恐怖心を和らげる練習
マッチに火をつけて机と平行に保ち、熱く感じるまでの秒数を数えたのち、燃えさし入れに捨てます。これにより、過度に怖がらず、落ち着いて安全に火を扱えるようになります。
(4)構造理解のための触察(写真2)
分解して構造を理解します。ストローや尖った道具(点筆など)を使って息を吹き込んだり探ったりします。また、上部の部品を外してからガス栓を軽くひねり、鼻を近付け、ガスの出口を嗅覚で確認します。これにより、空気調節ネジ、ガス調節ネジの役割を実感として理解できます。
(5)操作の事前練習
左手をガス調節ネジに添え、右手の親指と人差し指でマッチを一本横向きに持ち、先端をガスバーナーの筒先に載せます。他の指は筒の中程に触れるようにして、正しい姿勢を身に付けます。
(6)教具の工夫
「マッチストライカー」は、マッチを片手でするための教具です。百円ショップのソープホルダー(吸盤)の上にマッチ箱側面の紙ヤスリ(吸着をよくするためにプラスチック板を貼付)を置き、机に圧着させます。これにより片手を自由にでき、ガス調節ネジから手を離さず操作できます。
◇本番の操作
(7)熱感や聴覚の活用(写真3)
練習通り火をつけます。炎が確実についたかは、炎の30センチほど上に手をかざすと熱で分かります。その後は、音で確認します。ガス調節ネジを「シューッ」と音が聞こえる程度にし、かすかに聞こえる程度まで閉めます。次に 「ボッボッ」という音が聞こえるまで空気調節ネジを開きます。その後、音が聞こえるか聞こえないかまで閉めると、良い炎の状態になります。
その他の視覚を補う工夫
(1)タブレットとアプリの活用
撮影した画像や動画は拡大や巻き戻しが自在です。アプリ「ウゴトル」は、チョウの羽ばたきなど速い動きもコマ送りで観察が可能です。 色覚障害がある場合は「色のめがね」で色を判別することができます。
(2)背景色の工夫(写真)
試験管立てなどは黒背景と白背景を準備し、見やすさを向上させます。
(3)拡大手段の選択
タブレット型端末の他、単眼鏡にカバーを付けた簡易顕微鏡や拡大読書器、顕微鏡に接続した大型モニターなどを活用します。
(4)教材の代替
花のつくりの学習では、アブラナの代わりにユリやチューリップなど大きな教材を使います。模型や立体コピーの方が実物よりもイメージをもちやすい場合があります。
おわりに
このように五感を生かした観察・実験を計画的に組み込むことで、視覚障害のある児童生徒も実感を伴いながら、安全かつ主体的に理科の学習に取り組むことができます。
<参考文献>
1 文部科学省「学習指導要領解説 特別支援学校理科編」第2 視覚障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校
2 特別支援学校(視覚障害)中学部点字教科書の編集資料 理科(令和7年4月版)
3 「視覚障害教育ブックレット」 (ジアース教育新社:筑波特別視覚支援学校編集)