高等部 数学「立体教材を用いた、投影図法や展開図と立体の構造認知の工夫」
視覚障害児や生徒にとって、空間全体のイメージや細部の状態把握は、困難な活動の一つである。立体の構造認知には、実際に立体に触れて操作することを通して、感覚的に構造をつかむ経験の積み重ねが必要である。
点字を使って学習する全盲の生徒が図形の学習を行うには、二次元情報を触覚で認知する力が必要とされる。点字教科書で取り上げられている投影図法や展開図からは立体の奥行きが想像しにくく、構造を正確にイメージすることが容易ではないと考え、操作的活動を通して、立体と投影図、展開図との関係を感じ取る活動や図形のイメージやその構造を言語化して表現する活動においての工夫を行った。
なお、今回は全盲の生徒の学習での実践であるが、見えにくさや立体、空間把握に関する困難さを抱えている児童生徒にも十分有効な工夫と考える。
【平面図形のレディネステストによる実態把握】
北海道札幌視覚支援学校研究研修部提供「令和4年度図形認知実態把握調査」使用
対象生徒の触察方法(触る際の手の形、手の動きの順番等)、書く活動でのアウトプット方法(途中で触察に戻って再構築することなく一気に書き上げたことより、得た図形の情報を脳内で描いて再構築し、アウトプットしている)、図形の位置関係を表す表現には不慣れであり、言葉が足りずに言い表せていない等、考察できた。
(写真 図形17:生徒の描写)
【図形の立体ピース等を用いた平面図形の学習】
(1)おうぎ形
立体ピースとそれをはめ込む円を教材として用い、おうぎ形の弧の長さ、面積が元の円の一部になっていること、おうぎ形の中心角に弧の長さと面積が比例していることを確かめた。
(2)平行四辺形
対角線で4分割した状態のひし形を提示し、生徒が四ピースを組み合わせる操作を通して、面積を求める公式を再確認した。
(写真 教材1:ひし形を構成する立体ピース)
レディネステストから、ひし形と正方形、ひし形と平行四辺形の相違点の区別が不明確であった。
→平行四辺形にどのような条件が加わると特別な平行四辺形(長方形・ひし形・台形)になるか辺の長さや角度を変えながら名称とその定義を確認した。
(写真 教材2:変形する四角形)
【図形の立体ピースを用いた空間図形の学習(展開図と立体模型)】
展開図の学習では、展開図を組み立てて立体にしたり、立体を開いて展開図にしたりする操作を通して、辺や頂点の重なりを理解できる。
アカバネ 立体展開説明器 10種組(AP-10W)
(写真の説明〔立方体・三角柱・五角柱・六角柱・円柱・三角錐・四角錐・五角錐・六角錐・円錐の10種〕 それぞれ10cm四方に収まる大きさ)
立体を構成する面の立体ピースを組み合わせて展開図を作る活動では、対象生徒は三角柱の展開図を写真のように作った。
→立体ピースを用いることにより、パズルのように立体ピースを置き換えて、いろいろな展開図を作ってみようと試みたり、できた展開図のピースを組み上げて辺の重なりを確かめて、実際の立体が作れているかどうか検証することができる。
おわりに
★見えにくい児童生徒にとって、触覚を十分に活用して立体を操作し、立体の構造を把握したり立体を構成する要素を自分の言葉で表現したりする活動が重要である。
そのためには、学習や生活においては、以下の3つの点について確認したい。
1 レディネスの把握の重要性(視経験の把握や概念の形成を含む)
2 児童生徒自ら思い通りに操作できる教材(大きさ、情報量等の検討)
3 触察活動を通して捉えたことを言語化する活動の重要性(学習した用語も随時取り込みながら、自分の思考を整理する)