ここがポイント教科指導 算数・数学科編
★ 操作的活動
算数・数学の指導において、特に数学的な概念の理解を図ることが重要と考えます。藤村1)(2012)によると、概念の理解とは、多様な知識を関連付けて、「その手続き、その考え方がなぜ、そうなるのか」といった数学的な概念の本質を理解したり、言葉や式等を用いてその理解を自分なりに表現したりすることを示します。概念の理解を促すためには、特に単元の導入段階で「操作的活動」を重視することが大切と考えます。
1 操作的活動の定義と目的
操作的活動とは、「取る、触る、動かすなどといった手指の動きで、目的意識をもって考えながら、教具に働きかける学習活動」です。教具を活用することで、児童生徒自身が教具を操作して思考過程を整理したり、数学的な事象を表現・理解したりすることができます。また、数量、図形、測定等、数学の具体的なイメージを形成しやすく、日常生活で数学を活用する力にもつながると考えます。
2 操作的活動の留意点
(1)教具の作成
大内2)(1989)は、見えにくさを補う上で、触覚や聴覚を活用することを前提に、次の留意点を挙げています。
1 楽しくおもしろい教具~目的意識をもちやすかったり、操作すると変化がみられたりするなど、「児童の意欲を喚起する」教具がよいと述べています。
2 使いやすい教具~簡単に壊れたり故障したりしないもので、一人でも扱えるものがよいとしています。
3 大きさや構造の配慮~広くても腕を伸ばして描かれる円弧の範囲内であること、2次元空間の理解などに配慮します。
4 ガイドの活用~操作の目印を付けたり、必要に応じてガイドを活用したりするなど、一連の操作的活動が滑らかに進むように配慮が必要です。
(2)視覚障害用教材教具への習熟~
盲人用のそろばん、三角定規、分度器、定規、触読式腕時計等、教具の適切な使用法に習熟しておくことが必要です。
(参考)三角定規(盲人用)
「斜辺の目盛りが15cmでA(45°、45°、90°)、B(60°、30°、90°)の2枚1組となっています。触読しやすいように2枚とも5mm刻みで凸目盛りが付けられています。定規を固定するためにピンを刺すための小さな穴が、A、Bとも3カ所に開けられていること、2枚の定規を組み合わせて平行線を引く場合、ずれにくいように定規の縁に段差を設けて2枚の定規がかみ合うようになっていること等が工夫されています。」3)(2010、特総研)
★ 課題や教材における情報の精選
児童生徒の学力や見え方、視経験、手指の巧緻性、触察の力等を踏まえ、各単元、授業においての押さえるべき内容や技能は何かを具体的に設定することが大切です。
例1「2次関数のグラフ」(中3・高1)
2次関数のグラフの特徴を学習する際のグラフの提示例です。
グラフA(「新 高校の数学Ⅰ」数研出版)は、中・高の教科書で提示されている例です。4つのグラフを1つの座標平面に書き表すことによって、(1)x^2の係数の符号により、放物線は上に凸なのか下に凸なのか、(2)x^2の係数により、放物線の開き具合はどうなのかという2つの視点について、グラフから読み取るようになっています。
グラフB(「新版 数学Ⅰ」数研出版【日本ライトハウス】」)は、点字教科書で提示されている例です。グラフAと同様に2つの視点について読み取れるように6つのグラフを書き表しています。x^2の係数が同じグラフは同様の線種で表しています。
グラフC(自作のグラフ)は、1つのグラフのみ提示しています。同様の放物線の軌跡の教材を作り、ベースとなるグラフCから、移動させたり、グラフAの視点(1)、(2)について、絞って確認することができます。
★参考・引用文献
(1)藤村宣之(2012)、数学的・科学的リテラシーの心理学、有斐閣
(2)大内進(1989)、「小学部教科教育における教材・教具の工夫と活用」、盲教育68号
(3)国立特別支援教育総合研究所(2010)、平成20~21年度 研究成果報告書「視覚障害教育における算数指導の基本とポイント」