ちょっとした工夫で生活の改善を! 「まな板の上の食材がよく見えない」「段差が分からず、階段を下りるのが怖い」……。視野や視力に障害があると、日常生活のさまざまな場面で不安等を感じることがあります。目で見て確認することが難しいことは、心理的にも大きな負担となります。しかし、身の回りのものにちょっとした工夫を加えることで、こうした不安を軽減できる場合があります。今回は、コントラスト(明暗差)を活用した、見やすい環境づくりについてご紹介します。 黒い茶碗と白い茶碗に白米を入れると? 2枚の写真は、どちらも茶碗に白米が盛られている様子です。どちらのほうが見やすいでしょうか。白米を白い茶碗に盛った場合と比べ、黒い茶碗に盛った場合のほうが、白米と茶碗の色の違いが大きく、食材を見分けやすくなります。このように、食材と食器の色のコントラストを高くすることで、料理を認識しやすくなります。こうした工夫は、食器だけでなく、身の回りのさまざまな場面で活用できます。 1.室内階段は、光具合等により段差が分かりづらい場合がある。 2.階段の段鼻に反対色のテープを貼ると、踏板が明確になる。 「まな板の上の食材が分かりにくい」→黒いまな板を使用する方法があります。食材とまな板とのコントラストが高くなることで、食材の輪郭を捉えやすくなります。特に、包丁を使う場面では、食材の位置や形を確認しやすくなることで、より安全に調理することにつながります。 階段などの段差がある場所では、段鼻(階段の踏板の先端部分)にテープを貼ることも効果的です。床や踏板と異なる色のテープを貼ることでコントラストが生まれ、段差の位置を見分けやすくなります。このような工夫によって、階段の上り下りの際に段差を確認しやすくなり、安全性を高めることができます。 白っぽい壁にある部屋のスイッチパネルを探す際、濃い色は、視力が低下している場合や、白濁などによって見えにくさがある場合でも、比較的見つけやすいことがあります。例えば、スイッチパネルの周囲を黒いテープで囲むことで、スイッチの位置を見つけやすくすることができます。このように、身の回りのコントラストを工夫することで、見えにくさを軽減し、より安全で暮らしやすい環境をつくることができます。 本校では、見えにくさによる生活上の困難を支援する講座「あいサポート教室」を開設しています。講座では、視覚障害による生活上の困難や、それぞれの見え方に応じた環境づくりなどについて、一緒に考えていきます。講座の詳しい内容については、表1をご覧ください。視覚障害といっても、見え方や困っていることは一人ひとり異なります。その人に合った支援や工夫を考えることが大切です。 「見えにくくて困っている」「生活の中で、もう少し見やすくしたい」など、気になることやお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。 (文責:藤田由樹) あいサポート教室 開設講座一覧 1 歩行講座 (屋内、手引き歩行) 自宅などを一人で歩くとき、またはご家族、介助者と一緒に屋内外を歩くときの安全な歩き方を練習します。 2 歩行講座 (白杖を使った歩行) 白杖は持っただけでは歩けません。白杖の基本操作から実践的な歩行までニーズに応じて練習します。 3 音声パソコン講座 読み上げ機能を搭載したパソコンを使用します。基本操作やタッチタイピング、コマンド入力などを練習します。 4 音声読書器と日常生活便利グッズ紹介 読書環境を支援する機器について、機器の操作方法の他、サピエ図書の利用などを紹介します。その他、生活に活用できる便利グッズの紹介をします。 5 スマホ講座 スマートフォンに搭載された、画面読み上げ機能の使い方を練習します。また、日常生活で活用できる便利なアプリも紹介します。 6 点字講座 点字を読むための手の動かし方や点字の成り立ちを学び、屋外の表示などに使われている簡単な点字を読めるように練習します。 7 調理講座 安全に調理を行うための物の配置や器具の使い方を、実際に調理をしながら体験します。また、便利グッズも紹介しています。 8 合同講座 あいサポート教室に参加されている方や卒業生などが集まって、余暇的活動をします。余暇の広がりや情報交換の場となっています。 見えにくさでお困りの方、視覚支援学校で学んでみませんか?(学校キャラクター チューモくんより) 高等部専攻科『生活情報科(1年課程)』について 生活情報科は、主に中途障害などにより「見えない」「見えにくい」成人の方を対象とし、視覚障害による生活上の困難を軽減するための知識や技術を身に付け、社会生活の質を高めることを目的とした1年課程の学科です。全国でも数少ない特色ある学科として、一人一人の見え方や生活状況、ニーズに応じた学習を行っています。 社会生活をより安心して送るために必要な知識や技術を身に付けられるよう、視能訓練士や歩行指導員などの専門家と本校の教員が連携し、それぞれの見え方や生活上の課題に応じた学習を支援します。また、1年間の学習を終えた後、本校の理療科 (あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の国家資格取得を目指す学科)へ進学することもできます。 これまでに、20代から60代まで幅広い年代の方が学んでおり、それぞれの目標に向かって学習に取り組んでいます。 [主な学習内容] ※入学に当たっては、ご本人やご家族から、見え方の状態や家庭・地域での生活におけるニーズなどを伺い、それぞれの状況に応じて、以下に示す学習内容を計画します。 1 歩行・移動 ・屋内での歩行 ・白杖を用いた屋外での歩行 ・白杖の選び方 ・駅・電車・バスなど地域生活に必要な公共交通機関の利用 2 情報機器の活用 ・パソコン・スマートフォンの画面の拡大機能や音声機能を活用した操作 ・音声録音図書のオンライン利用 ・拡大読書器などの活用 3 日常生活の改善 ・視覚に配慮した生活用具の紹介と活用方法 ・ルーペや遮光レンズの選び方 ・家事や調理など、家庭生活の基礎的な動作 4 社会参加と余暇 ・関係機関や福祉サービスの活用(市町村窓口、相談支援事業所、ハローワーク、障害者就業・生活支援センターなど) ・余暇活動・生涯学習(点字図書館・博物館・美術館の利用、視覚障害者スポーツなど) 【生活情報科卒業生の声】 30代男性 眼が見えなくなってから、生活情報科で白杖を用いた歩行指導を受けました。白杖歩行の基本を身に付けたことで、一人で歩くことの安心や自信を得ることができました。道順を覚えれば、秋田駅の構内や駅周辺も一人で移動できます。 また、音声読み上げアプリを活用することで、パソコンも使えるようになりました。練習によってショートカットキーを覚えたことで、マウスを使わずにブラインドタッチで操作できるようになりました。現在は、生活情報科での一年間の学びを終え、本校の理療科に進学し、あん摩マッサージ指圧師の資格取得に向けた勉強や日々の情報収集にパソコンを活用しています。 生活情報科では、家事や余暇についても学びました。見えなくなってからは料理からも遠のいていましたが、調理実習で楽しみながら様々な工夫を覚えたことで、自宅でも簡単な調理をするようになりました。 50代男性 急に眼が見えにくくなり、自宅から出掛ける機会が減ったことで、狭い世界で過ごしていました。生活情報科に入学すると、白杖歩行の練習をしながら、時々校外学習にも出かけました。千秋公園では季節の移り変わりや外の空気、人々の賑わいを感じることができました。県立博物館では展示物に触れ、形や特徴を確かめながら鑑賞しました。 白杖歩行を始めて一年が過ぎた現在では、慣れた場所であれば一人で歩くことも、必要に応じて介助を受けることにも不安を感じなくなりました。周囲の方たちの後押しがあり、自分自身も状況を受け入れて一歩を踏み出したことで、再び世界の広がりを感じるようになりました。自分自身も前向きに変わることができました。 歩行以外では、サピエ図書館のサービスを利用するようになりました。これは図書の音声データをインターネットを通じて利用するサービスです。このサービスを利用することで、本を読む楽しさが自分に戻ってきました。 現在は、本校の理療科に進学し、あん摩マッサージ指圧師の資格取得の勉強に取り組んでいます。同じ境遇の仲間が共に学んでいることに日々励まされています。 (文責:藤原規行) 高等部専攻科『理療科・保健理療科』について 【本校専攻科在校生へインタビュー】 本校のあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師を養成する職業課程(以下「理療科」)で学ぶ在校生に、入学までの経緯や現在の学校生活、将来への思いについて伺いました。 Q1: 理療科へ入学する前は、仕事や進路について、どのような悩みや思いがありましたか? A: 見えなくなってしまう恐怖で、精神的にも不安定になり、現実を考えることをしなくなっていました。時間が経てば解決する問題でもなかったため、落ち込みに拍車をかけ、「この先」ということを全く考えたくなく下を向いてばかりの生活を送っていました。 Q2: 本校の理療科を知ったきっかけと、入学を決めた理由を教えてください。また、本校に入学していなかったら、どのような進路を選んでいたと思いますか? A: 学校を知ったのは術後定期的に通っていた病院でもらった一枚のリーフレットでした。また、ラジオから聞こえてきた「ひかりは無いが、のぞみはある」という言葉に感銘を受けました。それは、みどりの窓口で交わされた言葉に心を動かされた方の話で、私自身も大切なことに気付かされました。この二つのきっかけがなければ、将来への希望を見いだせないまま、今も立ち止まっていたかもしれません。 Q3: 実際に入学してみて、授業や実技、学校生活についてどのように感じていますか?特に印象に残っていることがあれば教えてください。 A: 全てが新鮮に感じました。30年以上勉強から離れていたため驚きの連続でもありました。見えない状況での勉強となるため、基本のPC操作から始めました。それ以上に難しかったのは漢字です。理療では専門用語が難しくて、今も理解に苦労することがあります。 Q4: 理療科で学ぶ中で、自分自身にどのような変化や成長があったと思いますか? A: 高校時代に専門分野を学んでいた頃を思い出しました。あの頃と同じように全く知らない知識を必死に学んでいます。学生なのだから、とにかく学ぼうという気持ちに大きく変化したと感じています。 Q5: 理療科への入学によって、将来の目標や人生の見通しはどのように変わりましたか? A: 入学当初はすぐ開業したいと考えていました。しかし、知識を得れば得るほど迷ってしまいます。もちろん、いずれは開業したいと考えています。ですが、開業するには、まずしっかりと経験を積む必要があると気付きました。焦らず考えていきたいと思います。 Q6: 見えにくさがあり、仕事や進路に悩んでいる方、そのご家族や支援に関わる方へ伝えたいことはありますか? A: 私の場合、見えなくなることで情報を得にくくなり、孤立しがちでした。私は、一枚のリーフレットと一つの言葉に背中を押されました。見えにくさがあると、必要な情報を自分で見つけ、進路を判断することが難しくなり、閉じこもりがちになることもあります。道を決めるのは本人ですが、周囲の方には、どのような道があるのか、できる限り情報を伝えてほしいと思います。 今回、理療科で学ぶ在校生の声をご紹介しました。この言葉が、見えにくさによって仕事や進路に悩んでいる方や、その御家族、支援に関わる方にとって、将来を考える一つのきっかけになれば幸いです。 ※理療とは、1.あん摩マッサージ指圧、2.はり、3.きゅうの三つの療法の総称です。 本校では、本人・ご家族・関係者の皆様からのご相談・見学を随時受け付けています。ご希望に応じて、スクールバスや寄宿舎、諸経費等についても紹介いたします。 (文責:望月秀樹) お問い合わせ 秋田県立視覚支援学校 ロービジョン支援センターへご連絡ください。 相談支援担当 近江龍静(おおみ りゅうせい)教頭、銭谷寿(ぜにや ひとし)、畠山尚子(はたけやま なおこ)、加藤しお子(かとう しおこ)、藤田由樹(ふじた ゆき)